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札幌高等裁判所 昭和30年(ラ)39号 決定

抗告人 滝内義雄

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人の抗告の趣旨および理由は、別紙記載のとおりである。

(一)  別紙一の抗告理由中競売期日の公告について

本件競売期日の公告には、民事訴訟法第六五八条第一項第三号掲記の事項が記載されていないことは、本件記録に徴し明白である。そこで少くとも、本件競売申立当時以降所論のような賃貸借が存在するかどうかにつき考えてみるに、所論にそう原審における抗告人の審尋の結果(第一回)はたやすくこれを信用できないし、抗告人提出の熊谷よね名義の証明書によるもこれを認めることができない。また、他にこれを肯定するに足りる証拠がない。かえって当審における抗告人の審尋の結果と本件記録によると、抗告人の実母である熊谷よねが昭和一四年頃本件家屋を当時の所有者松島保吉から賃借したこと、松島保吉が本件家屋を同二〇年頃高橋松吉に売却し、同人においてその所有権を取得すると同時に、熊谷よねに対する松島保吉の賃貸人たる地位を承継したこと、抗告人が昭和二五年か或は同二六年頃高橋松吉から本件家屋を代金六万千円で買い受け、その所有権を取得すると同時に、熊谷よねに対する高橋松吉の賃貸人たる地位を承継し、ここに熊谷よねは、抗告人に対し本件家屋の賃借権を有するに至ったが、その後右よねは暗黙のうちに右賃借権を放棄し、おそくも本件競売申立当時である昭和二九年一一月二四日頃から本件家屋に賃借権を有しなくなったことがうかがい知ることができるのである。されば本件競売期日の公告に民事訴訟法第六五八条第一項第三号所定の事項の記載のないことは当然であって、右公告にはなんら違法の点がないから、この点の抗告理由はこれを採用することができない。

(二)  別紙二の抗告理由中競売手続中断について。

不動産競売手続が開始された後は、原則として当事者は、その手続の主体ではなく、その手続は、主として執行裁判所の職権によつて遂行されるものであるから、当事者が死亡しても、権利実現の必要がなくならない限り、その手続を遂行するに差支えがないので、不動産競売手続においては民事訴訟法におけるような中断はないものと解するのが相当である。本件記録によると、本件不動産競売手続が開始された後である昭和三〇年六月四日に本件債権者角鴫助三郎が死亡したこと明白であるが、これがため本件競売手続の中断を来すものでないことは、前段説示の理由から当然といわなくてはならない。したがつて右債権者の死亡により本件競売手続の中断を来すものであるとの抗告理由はこれを採用することができない。

以上、(一)、(二)以外の抗告理由は、適法の抗告理由とはならないし、なお記録によるも本件競落を不許とすべき事由を発見することができない。それ故原決定は相当である。

よつて民事訴訟法第四一四条第三八四条第九五条第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 猪股薫 裁判官 臼居直道 裁判官 安久津武人)

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